今回も、前回に引き続き早期退職するにあたって、どれだけの資産を持てばよいか、考察していきたいと思います。
前回の記事では、FIREに必要な資産額の計算として、4%ルールを紹介しました。よろしければ、こちらからご覧いただければと思います。
よく、X(旧twitter)では、短文の投稿をメインとしているためか、根拠なく1億円、2億円で早期退職といったキーワードを目にします。
早期退職するのであれば、安定的な収入を得ることができなくなるのですから、本当に資産の不足がないか何度も点検・確認する必要があるでしょう。あるいは、その反対に大切な自分の時間を投じて仕事で収入を得ているのであれば、その必要な資産額が本当に正しいのか、リスクを恐れるあまり、実は資産を増やしすぎているのではないかも同じように考える必要があります。
特に、前回ではトリニティスタディと呼ばれる研究結果である、4%ルールをベースにリスク資産額を計算しましたので、今回は無リスク資産について考えてまいります。この無リスク資産が一定以上あるからこそ、相場の暴落に耐性が付き、より多くのリスクをとることができるものです。
私自身も48歳で早期退職しましたが、この現金保有額をいくらにするかは、退職前も現在の退職後も考え続けております。先にポイントを書いておきますと、年間生活費の6年程度もあれば十分なのではないか、と考えております。
なお、ここでは以下を前提としております。
- 数年以内に早期退職できそうな方
- 早期退職後には、副業あるいは再就職しない方(リスク資産からのみ収益を得る)
すでに退職されている方も、保有資産の考え方は参考にできる部分があると思います。
4%ルールの問題点と現金の必要性
4%ルールの問題点
4%ルールの最大の弱点は、特に早期退職してすぐに暴落が起こってしまった場合、それ以降の計画が相当に難しくなってしまうことです。例えば、円建てのS&P500インデックスファンドであれば、年間20%程度の下げの局面は数年に一度は発生してしまいます。仮にその下げ相場が退職してすぐに発生した場合、退職時からマイナス20%となったリスク資産で取り崩しを始めなければなりません。そうすると、リスク資産の増加するスピードより取り崩しのスピードが速くなり、計画の大幅な見直し(=生活費を抑える、再就職する、新たな副業を行う、など)が必要となるでしょう。
過去の相場が低迷する期間
以下のグラフは、TradingViewをもとにした円建てS&P500のチャートに、下げが発生してから元の値段に戻ってくるまでの期間を私が青字で追記したものです。チャートの期間は2003/12/31~2023/12/31としました。それ以上古いデータはS&P500と言えど、現在とは全く別物だろうと考えているため、参照しないものとしております。また、1年未満で下げから回復している期間は軽微な下げであるとみなして追記しておりません。
TradingView提供のチャート、本チャートはTradingViewに帰属します
上のグラフの通り、1年以上株価が回復しなかった期間は、6年5か月、1年6か月、1年1か月となっております。正直、サンプルとしては少ないのですが、それだけここ20年間のS&P500は強かったとも言えます。
なお、この6年5か月というのは、リーマンショックによる下げだけが原因ではありませんでした。ドル円が2007年6月の123円から2011年11月の75円台という超円高の期間でした。当時は「有事の円」と呼ばれておりました。円にしておけばとりあえず安心というように、世界中から評価されておりました。このため、日本人から見ると、長期間低迷しているように見えてしまっておりました。
準備しておく無リスク資産
上のグラフをそのまま解釈すると、6年5か月分の現金を保有しておくと、過去20年のデータから判断した場合は、安全であると言えます。仮に年間360万円の生活費だとすると、
が必要となります。
この6年5か月というと、有限な人生で、相当長い期間となります。これだけ長い期間、過去のピークを越えられず低迷を続けると、よほどの胆力がある方でもない限り、損切りしてしまいそうな長さです。そのような下げ相場に安定した給与収入なしで耐えられるようにするには、それなりの現金も必要でしょう。夢のない話にも聞こえますが、過去20年間のS&P500のデータをもとにして考える場合、このようになってしまいます。
なお、相場の大暴落が起こっても4%ルールを維持できる、というのであれば、おそらく現金は1年程度の生活費を持っていれば十分だろうという考えもあります。無理せずに2%ルールまでたどり着けたのであれば、そこまでシビアに現金を考える必要もなくなってくると思います。
私自身は、15年以上の現金を保有しております。ただ、今となってはリスクを過剰に見すぎていると考えており、この判断は正しくなかったと判断しております。新NISAで現金比率を減らしていくことを計画しておりますが、それでも夫婦合わせて年720万円しか減らせないのが少々課題に感じております。
年齢に応じたリスク資産の比率
よく、100-年齢のパーセントがリスク資産の比率として最適である、といった説明もあります。例えば、60歳の方は100-60=40%をリスク資産に、残りを無リスク資産に振り分ける、という計算です。
この計算方法は、考えやすい・計算しやすい、という点でメリットはありますが、それ以上のメリットはなさそうです。Youtubeや著名なブロガーなどでこの手法を推している意見はあまり見かけないです。この考え方に、合理的な説明がないからだろうと思います。
サマリー
今回の記事では、どの程度の無リスク資産を持っておけば、安全であるかについて円建てS&P500のデータをもとに考察しました。
記事では6年5か月分という長期間の下げ相場を例にして考え、生活費360万円と仮定すると、2,310万円の無リスク資産が必要と結論を出しております。
この6年5か月という数値の解釈ですが、これ以上長期間の下げ相場という可能性もゼロではありません。そう考えると、いつまでたってもFIREできないと考えがちなのですが、そのような場合には、アルバイトをする、生活費を切り詰めるなどすればよいのです。
リスクを恐れるあまり、早期退職をずるずると遅らせるというのも、一度しかない人生を相当に無駄遣いしているようにも考えられます。どこまでいってもリスクをゼロにすることはできず、FIREを達成するには、どこかでこれで十分という決断が必要になります。この決断をするには金融知識、税知識、家計管理などの知識が必要です。知識が身に付けば、恐怖感というのも相当薄れていくものです。このブログを見て、FIREへの一助となれば本当に幸いです。
今回も、ご覧いただきまして、ありがとうございました。
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